2017年1月・冬のベンチでアイスを食べる

 呑川緑道を歩いているとときどきベンチに出くわす。大きな桜の木の下の二人掛けの木製ベンチは風雨に晒されたくたびれ具合がなかなかよい。ペンキの剥げかけた動物のかたちのベンチはたぶんコンクリート製だと思うが、てんとう虫とライオンとうさぎとかめが同じ大きさだ。すべてのベンチが統一性も計画性もない感じでぽつぽつと設置されていったようで、緑道を歩いているとベンチは唐突に現れる。 

 すごく寒かった日曜日、ダウンジャケットにマフラーと手袋の重装備で緑道を歩いていると、くすんだオレンジ色のイタチのような胴長動物のかたちのベンチに40代くらいの男の人が座ってアイスを食べていた。隣に切株を模したらしき一人掛けのベンチがあって小学生くらいの男の子が座ってやはりアイスを食べていた。わたしはせっせと歩いていたが、つまり運動していたのだけど、寒かった。こんな日に冷え切っているにちがいないコンクリート製のベンチにじっと座ってアイスを食べるのはすごく寒いんじゃないかと思った。ふたりは向かいあっていなくて同じ方向かあるいは別々の方向を眺めながら、しいんと黙ってアイスを食べていて、なんだかぜんぜん楽しそうでもなかった。一見親子に見えるけどそうじゃないのか、ふだんあまり一緒にあそばない親子なのかな、両親は離婚していて今日がお父さんと会う日なのか、甥をあずかっているおじさんなのか、お母さんがどっか行っちゃって手持ち無沙汰で盛り上がらない休日をすごしている父子なのかとか、いろいろバージョンを妄想した。近くにセブンイレブンがあるのでたぶんアイスはそこで買ったんだと思う。どっちがアイスを食べようと言ったんだろう。大人が誘って子どもが断りきれなかったのか、子どもが言い出して大人も魔がさしたのか。ああ、そういえば自分が子どものころは大人が差し出す「なにか」を決して断れず受け取っていたなあ、なんてそのときのちょっと困ったような戸惑うような気持ちを思い出したりする。だけどあの二人も元気よく緑道を歩いていたからそれほど寒くもなくちょうどセブンイレブンがあったからアイスを買って、休んで食べてるうちに疲れていることに気づいて無口になりせっかく歩いて温もったのにアイスのせいで寒くなり、シマッタと思いつつ残すわけにもいかないからとにかく食べちゃおうと黙々と食べていただけかもしれない。

 などと考えながら、正月に帰省していたためにまだお参りしていなかった八雲氷川神社に寄ったら手水鉢に氷が張っていて、その氷を写真に撮ろうとしてiPhoneを覗くと肉眼ではボワっとしている青空が水面にくっきり映っているのが見えて、氷の浮かんだ水面に映る青空はすきっとしていて気持ちよさそうで、こんな青空の下でアイスを食べるのもいいかもしれない、と思った。