2017年1月22日は、はなうたの日

1月22日にちようび。八雲から柿の木坂を通り環七を渡って碑文谷公園を抜け学芸大駅近くまで歩くあいだに、鼻歌をうたっている人に四人遇った。

一人めは4、5歳くらいの男の子で歌というより雄叫びのように恐竜の名まえををうれしそうに連呼しながら父親の後ろを歩いていた。

しばらく行くと素朴な笛の音のようなものが聞こえてきた。どこから聞こえてくるのかとあたりを伺うと20メートルくらい前を歩いている人が発しているらしい。背が高くちょっと波打ったグレイの長髪とチャコールグレイのコートに黒いブーツを履いていて、なんとなくボブ・ディランみたいだった。その人はゆっくり歩いていたので距離が少しずつ縮まっていき笛のような音も少しずつはっきりしてきて、それは笛の音じゃなくて人が出している声だとわかった。少しとぎれて音の質が変わり、追いついて追いこすときには、るるるるる…と少し高い声でハミングしていた。すれ違うとき気になってちょっと顔を見てしまった。背が高いので男性だと思っていたら女の人だった。

碑文谷公園に入るとちょうどポニーが子どもを乗せるサービスをしている時間の終了間際で、ポニーを歩かせる小道と厩舎のあいだに立って眺めていたら、厩舎にポニーを連れ帰る係員の人にポニーに乗った子どもたちいずれかの親と思われたらしく、にこやかに「触りますか?」と立ち止まってくれたので「どこを撫でればいいですか」と聞くとどこでも大丈夫です、おとなしいんですよ、と言われ、たてがみのあたりを撫でるととりたてて反応もなくじいっとしている。ポニーの目は上睫毛はそれなりにびっしり生えているけど下睫毛は数本しかなくしかもすごく長い。10センチくらいあるんじゃないだろうか。ツツジやサツキの雌蕊みたいだ。ポニーを撫でたあと厩舎に行くと壁にポニーの写真と名前と性格が書かれたパネルが貼ってあって、撫でたポニーはあやめという名前で、背中に白い大きな花のような模様があるから付いた名なのか、あるいはあやめの咲く季節に生まれたのかもしれない。あやめはメスだったが、性別のうちオスと書かれているものは必ずオス(セン)と書かれていてセンというのは元の性格が荒いために去勢された馬を言うのだと知る。

公園を出て学芸大の駅の方へ向かうと鼻歌をうたいながら後ろからやって来た人に追い越された。白いキャップをかぶり上着もズボンも白くて左肩にラケット入ってるような黒いケースを掛けている青年だった。

小腹が空いたけどこのタイミングでカフェに入ると出てきたときには日が陰ってしまうのがもったいないから食べるものを買って公園に戻ることにして東横線の高架の下のマーケットに入ると、シルバーカーを押しながら買い物している老婦人が鼻歌をうたっていた。今日は鼻歌を歌いたくなるくらい気持ちのよい冬の日なのだ。

そして碑文谷公園にもう一度もどり、池のほとりのメタセコイアの数本立っているベンチの下でメタセコイアの裸枝に囲まれた青空と、碑文谷池を交互に眺めながら巻き寿司を食べた。池には羽が白い部分と黒い部分に分かれた名まえを知らない水鳥の群れがいて、池の縁には長い尾をひくひく動かす鶺鴒と、雀と鳩と椋鳥と、たぶん目白がいて、それぞれ歌をうたっていた。